PAINTWEB 絵画鑑賞・美術鑑賞術

PAINTWEBは深い絵画・美術鑑賞をするために欠かせないイコノロジー、イコノグラフィー(図像学、図像解釈学)等を紹介しています。

イコノロジー(図像学) 初めてのイコノグラフィー(図像学)

4.あとがき

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以上でイコノグラフィーに関する説明は終わりです。いかがでしたしょうか?絵の見方は人それぞれ自由ですが、画家の生きた時代や考え方を知ることで現代の私達にはわからない様々なエピソードを読み取る事ができます。イコノグラフィーについて解説したサイトは少なく、絵の見方など学ぶ必要はないと考える人も多いと思います。もちろん凝り固まった見方をして窮屈になる必要はありません。しかし、未熟ながらこのサイトでイコノグラフィーというものを紹介することで、少しでも絵画鑑賞の楽しみが深まったという人がいればとても嬉しく思います。

キリスト教についての話が多く出ましたが、私はキリスト教徒ではありません。日本人はよく言われるようにほとんど宗教と無縁な人が多いと思います。しかし、絵画の主題にはキリスト教やギリシア神話が多く取り上げられます。欧米の世界も美術の全盛期であった頃は完全にキリスト教社会でした。当時の人々は当然のようにキリスト教の知識を持っており、画家達も教会に頼まれて仕事をする事がよくありました。そういった社会で描かれた絵画なのだから、私達はキリスト教や当時の常識を学ばなければその絵画を正しく理解する事はできません。一からキリスト教と当時の風俗文化を全て学ぶのはあまりに範囲が広すぎて困難です。だからこそ、イコノグラフィーでその膨大な情報の中から絵画鑑賞のために必要な知識だけを抜き出して学びます。それさえ押さえておけば、現代の日本人であっても画家のメッセージを正確に理解する事ができるでしょう。私は大学の講義でイコノグラフィーを知り、今まで当たり前のように見ていた絵画にこれだけのメッセージが隠されていたのだとわかって大変驚きました。日本ではあまり浸透していない学問かもしれませんが、絵画鑑賞には欠かす事のできないものだと思います。ここで取り上げた内容はほんの一部です。もし興味を持った方がいたらぜひ関連の本を読んでみてください。きっと絵画鑑賞の世界が広がると思います。

私自身もこのサイトで展示しているように絵を描きます。現代の絵画もよく見ますが、現代ではこのような「読む絵画」が少ないと思います。観る側が絵の見方は人それぞれとして図像を意識しないというのはもちろん、描く側も自らの内面の表現だけに固執している人が多く、外の世界に画題を求める事が少なくなったせいかもしれません。そして、現代社会は実に多様な考えが受け入れられる分、社会の共通の概念や知識というものが失われてしまいました。

しかし、私は今、読むように解釈できる絵画を描きたいと思っています。イコノグラフィー的解釈のできる絵画を描きたいのです。もちろん過去の巨匠の真似をするだけでは難しいし、表面上は真似できてもその構成力や計算はとても巨匠には及びません。よく「見たままに描くのは簡単だ」と言う人がいて、あのピカソも自分で子供の頃には既にラファエロのように描く事ができたと言っています。しかし、本当に難しいのは表面上の世界の再現ではなく、その計算された画面作りと広い知識に基づくメッセージの視覚化にあるのではないでしょうか。私も写実絵画をやっていて、見たまま描いていて本当に良い作品になっているのだろうかと不安になる時があります。だからこそ、古典絵画のように何か読み取れるメッセージを籠める事で、より長い時間その絵と向かいたくなるような味わい深い絵画を作れるのではないかと考えています。まだそれを表現するのは難しく、現代で何を図像に描けば良いか掴めていません。最近では日本固有の図像を描くのも良いかと思っています。まだ日本ではイコノグラフィーが浸透していない分、日本の図像を油絵で描いた作品は少ないと思います。もちろん日本画や仏教彫刻の世界ではそれも既に使われています。日本の図像は伝統美術に残り、それを油絵にする事でまた新しい作品が作れるのではないかと思っています。しかし、まだまだ学ぶ事が多すぎて実践するには至りません。これからも多くの事を学び、いつかそんな絵を描けるようになりたいと思っています。その絵が完成した時に、このサイトでイコノグラフィー的解釈を学んだ人が自分の絵も味わい深いエピソードを持った作品の一つのように観てくれるようになれば幸いです。







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