絵の見方というのは人それぞれの方法があると思います。美しい絵画は観ているだけで楽しいものです。しかし、古典絵画にはただ綺麗だと感嘆するだけではもったいないほど様々な要素が込められています。それを読み解くためにあるのがイコノグラフィー(図像学)です。たとえば、道端で向き合った二人の紳士が相手を見つけて帽子を取ったとします。西洋人ならこれを見ると言葉がなくてもその人は挨拶をしているのだとわかります。こういった具合に、当時の人や西洋人なら意識せずにわかる約束事があります。しかし、その約束事が私達現代の日本人ではわからない場合もあります。特に古典絵画ではキリスト教やギリシャ神話をモチーフにした絵が多いため、そういった物に馴染みのない私達は、描かれた人物がある行動をしたり物を持っていたりしてもすぐには理解できません。その約束事の一つ一つを教えてくれるものがイコノグラフィーなのです。イコノグラフィーを学ぶ事で今までわからなかった画家のメッセージが見えてくるでしょう。日本にも名画と言われる絵画がたくさん来ているのに、そこに描かれた物の意味を知らずにいるのであれば、こんなにもったいない話はありません。自分の目を信じて鑑賞するのも楽しいですが、せっかくだから画家の伝えたかった事を知っておいて損はないのではないでしょうか。
私も大学の講義を受けるまでこのような学問がある事は知りませんでした。初めて図像学というものに触れた事で、何気なく描かれた物の一つ一つに深い意味があると知った時はとても衝撃的でした。しかし、インターネットでイコノグラフィーに関する情報を探してみても、意外にもそれを説明するサイトはほとんどありません。それならば自分で作ってしまおうと、イコノグラフィーを紹介する記事を書く事を思い立ちました。なるべく参考にした文献に基づき、私の主観だけが入らない正確な解釈方法を心がけてあります。
●導入
言葉だけでは実感できないので、早速実例を上げて説明をしようと思います。
ヨハネス・フェルメール 「天秤を持つ女」
この作品はフェルメールという画家の「天秤を持つ女」という作品です。私もフェルメールは大好きですが、フェルメールの作品を直に見た事は二度しかありません。この画家は人気があるにも関わらず、残っている作品は30点ほどしかありません。
この絵の注目すべき点は、女性の後ろにある絵画です。後ろの絵は「最後の審判」を主題にした絵画です。その点を踏まえた上でこの絵を見ると、フェルメールの意図したものが見えてきます。以前はこの絵画は金貨を量っている所だと言われていたそうですが、良く見ると女性が持つ天秤には何も乗っていません。何かを量っている場面ではないという事は、「天秤」である事に意味があると理解できます。最後の審判では大天使ミカエルが死者の魂を秤にかけます。後ろの絵に気づくことで、フェルメールはこの絵で「最後の審判」を寓意的に表現しようとしていた事がわかります。卓上の宝石箱は人の世の醜さを感じさせ、女性の静かな佇まいはどこか神聖さを感じさせます。フェルメールは鑑賞者に最後の審判を意識させ、節度のある生活をするように警告しました。
この絵では比較的図像は少ないですが、その分イコノグラフィー的解釈がしやすいと思います。普通に見ているだけではただ美しい女性の絵のようですが、画中画の意味に気づくと一歩踏み込んだ見方ができるのです。他にも名画と言われる絵画を見ると、その多くはこのような隠れた意味を見つける事ができます。これからそのような隠れた意味の見つけ方を紹介していきたいと思います。